日本刺繍の歴史は古く、5世紀ごろに仏教と共に大陸から伝えられたのが始まりと言われています。
その後、時代と共に、それまでは殆ど信仰のための繍仏に使われていた刺繍が衣類の装飾に多用されるようになると、日本独自の技法が次々と創作されていきました。現在使われている技法の殆どが、そうやって桃山時代から江戸時代の職人たちの手によって完成されていったものです。
明治・大正時代には、緻密な技法を凝らした刺繍が流行し、今に残る着物や半襟、帯などにその素晴らしい職人技の粋を見ることができます。
現在も、多くは着物や半襟などの和装のものに用いられていますが、様々な小物やインテリアにと活用の幅は広がっており、その繊細な色使いと立体感、絹糸の光沢、古典文様を中心とした洗練された図案など、日本刺繍は格調とその美しさで見る人を魅了しています。
日本刺繍は、絹の「平糸」もしくは自分で撚り合わせた「撚り糸」、金糸・銀糸などを使い、基本の技法だけで40~50種類、応用に至っては数百種あるという技法を組み合わせて繍われます。
[1]平糸繍い切り(ひらいとぬいきり)
[2]菅繍い(すがぬい)
[3]筵繍い(むしろぬい)
[4]まつり繍い
[5]相良繍い(さがらぬい)
[6]割り繍い(わりぬい)
[7]玉埋め(たまうめ)
[8]駒取り繍い(こまどりぬい)
[9]疋田繍い(ひったぬい)
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布地 |
おもに着物や帯に使われる絹地を使用します。 塩瀬・縮緬・羽二重・紬・箔・繻子など、いろいろな種類があり、地風も異なりますので、作品に応じて選んで使います。 |
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糸 |
釜糸(かまいと)と言われる撚りのかかっていない絹糸を、そのままか自分で撚りを掛けて使います。 何本もの糸を合わせることで太さを自由に変えることが出来、色数も市販のものだけでも500~600色あります。 |
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金糸・銀糸・ぞべ糸 |
金糸や銀糸を使った華やかな繍いは、日本刺繍の特徴でもあります。 太さは色々ありますが、一般的によく使われているのは、一番細い“毛金”や、“四掛”といわれる太さの金糸です。これらの糸を布にとじつけるために“ぞべ糸”といわれる細い絹糸が使われます。 |
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刺繍台 |
刺繍する布地を張るための組み立て式のものです。 日本刺繍は両手を使って繍うため、この刺繍台にしっかりと布を張らないと仕事が効率よく出来ません。 |
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角枠・木枠・フランス刺繍枠 |
角枠は、小さい布や“紋”を繍うときに使用します。 木枠やフランス刺繍の枠を使うときもありますが、それらはあくまで刺繍台の代用ですので、あまり時間のかからない、小品の制作に使うのが良いでしょう。 |
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針・針刺し |
針は日本刺繍専用のものです。手打ちのものと機械で作ったものがありますが、やはり手打ちのものが布通りもよく使いやすいようです。 針刺しは厚いフェルトのものを使うのが一般的です。 日本刺繍の針は短いので、大きな針刺しだと、中に針がもぐり込んでしまうことがあります。長い針は刺繍台に布を張る時に使う“かがり針(ふとん針)”です。 |
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はさみ・目打ち・てこ針 |
はさみは、小さくて薄い日本刺繍用の“にぎりばさみ”が使い易いです。 目打ちは、平糸で繍ったときの糸の“ねじれ”を直して綺麗に並べるためのものです。 てこ針は糸を撚るときに刺繍台のかがり穴に刺して糸を掛けるために使います。 |
クロッキー帳に描いたラフデッサンを元に、絵の配置や線を何度も直して、刺繍の図案となるように一本の線にまとめていきます。教室では自分で図案が描けなくても、教室用の図案や市販の図案集などから自由に使っていただけます。もちろん、図案作成のためのアドバイスやアレンジもいたします.
図案のイメージに合った布を選びます。生地の質や地色によって、作品のイメージや配色がかなり違ってきます。
出来上がりをイメージして布を選びましょう。
布が短いときは足し布をして、刺繍台に布を張ります。布質によって、張る強さも微妙に違います。
帯地などの伸縮性の少ないしっかりとしたものは強く張りますが、ちりめんのような柔いものは、引っぱり過ぎないように加減して張ります。縦に布を張ったあと、布の両耳を穴糸で刺繍台にかがり付けて横幅を広げ、 ピンと張ります。
布に、チャコペーパーなどで図案を転写し、布の地色とのバランスを考えながら配色と繍い方を考えます。配色と使用する技法によって、同じ図案であっても全く違った作品に仕上がるのが、日本刺繍のおもしろさです。
いよいよ刺繍開始です。日本刺繍の繍いは、普通の運針法と違って、刺繍台に張った布の上から下、下から上・・と、針を垂直に動かします。
日常を忘れて、ゆったりとした気持ちで刺繍するのが、きれいに繍えるコツです。少しずつ繍い重ねられて変化していく過程が楽しめるのも、日本刺繍の良いところ。糸の組み合わせで、自分でも思わなかった効果が生み出されることもあります。
試行錯誤しながらようやく作品が出来上がりました。以外に大事なのが仕上げです。ここで失敗することもありますので、慎重に、丁寧に糊をつけ、蒸気をあげて仕上げをしていきます。布と刺繍部分のバランスが整えられ、糸の艶も増した作品。 かがり糸を切り、刺繍台から外します。
刺繍台から外した作品を、用途に応じて額に入れたりバッグに仕立てたりします。製品になると、一段と刺繍が映えて感激もひとしおです。
この喜びが次の作品への意欲になるのです。
繍房“朱”の中嶋朱実(なかじまあけみ)です。私は小さい頃から絵を描くのが大好きで、早くから絵を描くことをライフワークにしたいと思っていました。 自分に一番合う表現方法を探して、ペン画、油絵、日本画、版画・・・と、様々な技法にチャレンジしましたが、なかなか定めることが出来ずに迷っていた時、偶然に日本刺繍と出会ったのです。
一目見た瞬間、その美しさ、細やかさ、図案の妙、伝統の技法の確かさ・・・その全てに魅了され、「これこそわたしの捜し求めていたもの!」と直感しました。 以来、ひたすら刺繍を続けて今に至ります。
まだまだ勉強不足ではありますが、ようやく自分自身の内面を表現出来るようになってきたように思います。 「手芸」ではなく「アート」として、「見る人の心に灯りをともせる様な作品をつくりたい」。そんな願いを込めて、日々針を動かしています。
創作することと共に、この素晴らしい日本の伝統文化を次世代に伝えることも、必ずしなくてはいけない私の役目と思い、現在、米沢と山形で教室を開き、生徒の皆さんと一緒に楽しみながら日本刺繍の普及に努めているところです。







ここでは、日本刺繍で作品を制作する工程を簡単に説明します。
